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2015年1月23日金曜日

StartupとLaw Firm(5)

(5)Fee体系

Startupの方々がローファームに依頼するにあたって最も気にされる点、それリーガルフィーではないかと思います。

「日本の大手事務所は高い。アメリカのローファームは目が飛び出るくらい高い。」

そんな印象をお持ちの方、かなり多いのではないかと思います。

日本の大手事務所もアメリカのローファームも、基本的にタイムチャージベースで仕事の依頼を受けることには変わりないのですが、まず大きく違うのが時間あたりのレート。日本の大手事務所ですと、若手のアソシエイトが大体1時間あたり2万円前後からスタートし、キャリアを積むごとにレートが上がっていき、パートナークラスになれば、3万とか4万円とか5万円になります。

これに対して、米国のローファームは、やはり俄然高し。ファームにもよりますが、大手になれば、アソシエイトレベルで時間あたり$400$500チャージすることも珍しくなく、パートナークラスになると$800から$1000、あるいはそれ以上をチャージすることもままあります。

それはそれで、それだけの価値があるといえる場合がほとんどだとは思うのですが、それにしても高いですよね。日本のローファームですら高いと感じる日本人(実際払う身になってみると分かりますが、ぶっちゃけ高いです。)、そして、そもそも論としてお金がないStartupの方々には、米国ローファームのリーガルフィーなんて、それこそ目からビームが出てしまうくらい高いと感じることでしょう。

…が、これは何も日本人に限ったことではありません。シリコンバレーのStartupだって、もちろんお金がありません。将来資金調達できる可能性は日本より高いのかもしれませんが、手元不如意な状況なわけです。

そんなStartupに継続的にリーガルサービスを提供しようとする以上、ローファーム側も、フィー体系を工夫し、Startupが利用しやすくする一方で、過度にローファーム側がリスクを背負い込まない形のフィーを提案しています。例えば:

   ディファーラル
Startup関連法務の初期費用の支払いを、最初の資金調達(50万ドルなど、一定の水準のもの)実行時まで猶予することがあります。ただし、リスクを抑えるべく、一定の金額(2万ドルや3万ドル)までリーガルサービスを提供したら、それ以降はリーガルサービスを提供しません。

   株式の引受
Startupからフィーを回収できないリスクや、そのStartupの有望性等に応じて、ファウンダーが最初に株式を引き受けるのと同じ価格(通常は1株あたり0.00001ドルなどノミナルな額)で、ローファームも数%株式を引き受けさせてもらうことがあります。

   デポジット
万が一の場合の実費等の支払に充当するため、委任を受ける段階で一定額のデポジット(例えば1000ドル)をお願いすることがあります。

日本人が思いつく「Startupが利用しやすくする」方法の典型であるフィーの割引は、あまり見かけません。これはおそらく、Startupからの依頼が膨大だからなのかなと思います。膨大な数のStartupにフィーの割引を提供したら、そのフィーがスタンダードになっちゃうかもしれないですからね。

また、フィーキャップも、特にStartup初期の法務関係ではあまり見かけません。もちろん、 フィーキャップで対応しているファームもあるのだろうとは思いますが、そもそも、キャップがあろうがあるまいが、お金がない以上は払えないですからね。そうであれば、払える段階になったときにこれまで提供したサービスの分は、通常通りしっかりと払ってもらうという方が、合理的なのかもしれません。

Startupからいただくリーガルフィーの体系には、色々と工夫の余地があるのだと思います。その工夫をするためには、Startup市場を正確に把握し、回収不能になるリスクと資金調達等に成功する可能性等を色々分析しながら考える必要があるのでしょうが、残念ながらこれ、多くの日本の弁護士の苦手分野です(苦笑)。でもStartupの支援をしようとする以上、避けては通れない道の1つだと思いますので、四苦八苦しながらやっていかねば!…と意気盛んになったり、「外注」という言葉が急に頭をもたげてみたり。。。

すいません、収拾がつかなくなりました(笑)。
ということで(?)、今日は金曜日、がんばっていきましょう!

竹内信紀

2015年1月16日金曜日

StartupとLaw Firm(4)


(4)クライアント向けコメント

日本の、しかも大手と言われる事務所で実務をやっていると、「クライアント向けコメント」を契約書なり、作成・修正中の書面に書いて、クライアントからの質問に答えたり、クライアントに検討を促したり、条項の趣旨を説明したり、なんやかんや色々書いて、ついでに目立つようにハイライトつけて…なんてことをするのが当たり前になってくるのですが、これ、意外と手間のかかる作業です。コメントが記録に残るし、正確性も担保できる面もあるので、良い面もあるのですが、その一方で、間違いなく手間はかかりますし、クライアントとのやりとりも1回(もしくはそれ以上に)増えることも多い気がします。

で、シリコンバレーのLaw Firmですが、基本的にそんなしちめんどくさいことはしません。時間もかかるし、クライアントの方も「検討してくれって言われても、ぶっちゃけよく分からんよ!」ということも多いらしく、条項に関していくつか選択肢があったり、数字を入れなければならない時も、[ ]とかつけてクライアントに投げるのはご法度です。

基本的に、こちら側で、これまでの実務経験を踏まえてクライアントに最適と思われる条項に仕上げ、数字を([ ]とか一切つけずに)入れて提示し、クライアントから特にコメントがなければ、そのままその案で突き進みます([ ]をつけるのは、日付だとか、金額がまだ当事者間で決まっていないとか、そういった形式的なものがほとんどです。)。

質問があった場合でも、たまにワードのコメント機能を使ってコメントバックしてくるクライアントもいらっしゃいますが、基本的には、簡単な単発の質問であればメールで済ませ、数が多かったりまとめて議論したほうが良いような場合には、電話して一挙に解決して、その結果を書面に反映して終わらせます(その書面の中に、【お電話でお話させていただいたとおり・・・(云々)】みたいなコメントはもちろんつけません笑)。

どちらのやり方がいいのかは、一概には言えないのかもしれませんが、Law FirmがビジネスとしてStartupのリーガルサポートを継続的にやっていくためには、「ある程度数をこなす必要がある」という命題が、大前提としてあると思います。それに、「Startupの人も(多くの場合)経験がない。だってStartupもの。」という小前提を掛け合わせると、日本で日常的にやっていた実務対応は、やはり現実的ではないなと感じるところです。

結局のところ、ケース・バイ・ケースという話に落ち着くのかもしれませんが、「どうやって合理的に仕事をこなしていくか」という視点は、忘れないようにしたいところです。
竹内信紀

2015年1月15日木曜日

StartupとLaw Firm(3)

(2)数字
Startupに限ったことなのかもしれませんが、シリコンバレーでは、ローファームが、純粋な法律相談のみならず、資本構成やファイナンス前後での持ち株比率・希釈化率の計算を行います。
例えば、Series Aのファイナンスを検討するにあたって、そのファイナンスが既存株主にどのような影響を与えるか、Series Aファイナンスの前にブリッジとしてConvertible Note(一定の金額以上でのファイナンスが行われた際に、当該Noteの元本及び利息が、当該ファイナンスで発行される株式に自動的に転換される旨の条項等がついた借り入れのこと)が発行されていた場合には、検討中のSeries Aファイナンスによって、そのConvertible Noteがどのように株式に転換されるのか等を計算し、Series Aファイナンスが実行された後の資本構成等を試算したCap Table(Pro Forma Cap Table)、その作成も、基本的にはLaw Firmが対応します。
この計算が意外と面倒で、もちろんエクセルを使って行うのですが、Convertible Noteが複数にわたって発行されていて、NoteごとにDiscount RateやValuation Capが違っていたりすると(なんのこっちゃ分からんと思われるかもしれませんが、これらの用語については、おいおいブログ内で解説しようと思います。)、結構複雑な計算が必要になります。これに、「ファイナンス後のOption Poolがファイナンス後の発行済総株式数(Option Poolを含む)の10%になるように、ファイナンス前にOption Poolを増加させる」なんて命題が加わると、エクセル内で計算式が循環しだして、えらい目にあったりするわけです。
この手の業務は、日本では弁護士があまりやらず、会計士さんですとか数字に強いアドバイザーが対応することが多いと思うのですが、考えてみると、これらの計算の根拠は、弁護士が作った契約書等に基づいてはじき出されているのですから、計算式を理解し、一番正確に計算できる(はず)の人も、弁護士のはずなのです。だから、本来はこのような計算業務も弁護士がやるのが妥当なはずなのです!・・・が、いかんせん、この手の業務が必要になってきた段階で、この手の計算業務を対応できる弁護士がほとんどいなかった(+弁護士の絶対数が少なく、殿様商売的な面もあったため、対応しようとする弁護士もほとんどいなかった)ため、いつのまにか他の専門職の方の仕事になり、そのまま現在に至っているのかもしれません(僕の勝手な想像ですけどね。)。
長くなってしまいましたが、何を言いたいかというと、シリコンバレーでは、Law Firmが、純粋な法律業務だけにとどまらずしっかり数字にも関与し、日本は他の専門職の方がやっている業務まで対応している(もちろん全部ではありませんが)ということです。
すなわち 「Law Firmに行けば、とりあえずStartupに必要な一通りのサービスは受けられる」 だからこそ、シリコンバレーの生態系にLaw Firmがしっかりと根付いているのだろうと思います。
竹内信紀

2015年1月9日金曜日

StartupとLaw Firm(2)

シリコンバレーにおけるStartupとLaw Firmということで、日本での弁護士業務の経験とWSGRでの経験を比べて、気付いたことをツラツラと書いてみようと思います。
法律関係の情報提供などという高尚なものではありませんが、気楽な読み物としてお読みいただければと思います。

(1)会社関連資料の管理
日本では、少なくとも会社関係の基本資料(定款、取締役会議事録、株主総会議事録、契約書等々)の原本管理はクライアントである会社の役目であり、その他の記録の管理も基本的には会社にお願いしているのではないかと思います。

これは、基本的にStartupがクライアントであっても変わりません。

もちろん、事務所側で作成したドラフト等は、事務所に保存されているのですが、最終版(サインされたバージョン)まできちんと写しなりPDFなりで送ってもらい管理しているかというと、必ずしもそうではないと思います。

ところが、シリコンバレー(というか少なくともWSGR)では、基本的には最終版(サインされたバージョン)を必ずクライアントから送ってもらい、きちんとデータベースで管理します。

聞くところによると、電子データのみならず、原本の保管まで行っている法律事務所もあるようです。

それで、いざ資金調達の局面になり、投資家サイドによるDDが必要になった場合には、Law Firmの方でデータルーム(といってもオンラインですが)を作り、我々のほうで保管してある資料をアップし、DDに供します。なので、データルームの設置からDDまで、かなりスムーズに進みます。

もちろん、クライアントによっては、それを好まないところもあるようですし、諸般の事情により記録の管理が行き届いておらず、あたふたしたり、アップデートに追われることもあったりなかったりするわけですが(だって人間だもの。)、基本スタンスは「Law Firmで管理」であり、単なる個別の法律業務の外注先ではなく、総務/法務機能の総合的なアウトソース先として機能していると言えば、分かりやすいのかもしれません(ちょっと言い過ぎのような気もしないではないですが)。

実はこれ、ちょっと考えてみれば当たり前で、なにせクライアントはStarupなんですから、総務とか法務とか、そんなしっかりした区分はない、、、というか、そもそもそんなことに力を使っている場合ではないわけです。みんなビジネスに資金繰りにネットワーキングに大忙し。法務文書の記録や保管に気を配っている暇なんかないのかもしれません。

ちなみに、こちらでは、会社を設立しても、特に必要がない限り、実務上株券を発行しません。資金調達の局面でVCから求められたりしたら、その都度発行する感じです。で、その理由は至って簡単。

「発行してもどうせ無くすから」

以上。
分かりやすい超合理的な理由ですね。

こちらで実務をするようになってよく耳にするようになった言葉として、「house-keeping」という単語があるのですが、こちらのLaw Firmは、そんなこんなで、まさしく会社のHouse keeperとしての役割を担っているのだなと感じます。

ほんとは別の項目も書こうと思ってたんですが、予想外に長くなってしまったので、今日はここまで。
竹内信紀

2015年1月7日水曜日

StartupとLaw Firm (1)

Wilson Sonsini Goodrich & Rosati(WSGR)で働き始めて4ヶ月が経ちました。
わずか4ヶ月ですが、会社設立、その後の基本法務、さらに資金調達を中心に、かなりの数のStartupに関与させてもらいました。その数20社以上、日本では考えられない数だなと感じています。

私がこれだけの数のStartupに関与できているということはつまり、それだけの数のStartupがWSGRに依頼しているということです。

これをシリコンバレー、さらにはベイエリア全体に視野を拡げてみれば、それこそ途方も無い数のStartupがローファームにリーガルサポートを依頼しているということになります。
先ほど「日本では考えられない数」というのは、すなわち、「日本ではStartupがStartupの段階で法律事務所にサポートを依頼することがまだまだ少ない」ということと同義ということになります。

そういえば、1度WSGRでお世話になっているボスに、日本の関係者から紹介のあったアメリカ中西部の会社の買収案件について最低限の情報のみで見積りをお願いした時に、そのボスから「シリコンバレーの会社であれば、最初の段階からほぼローファームが関与しているから、大体どのような状態か想像がつく。だから、最低限の情報のみであったとしても見積りを出すこともできるといえばできるが、中西部の会社は状態が分からない。会社内部がむちゃくちゃになっているかもしれず、そうなれば費用も当然あがる。だから、そのような情報だけでは、見積を出すことは不可能だ。」と言われたことがありました。
後半部分は、それほど驚くことではありません。日本でもよく経験することですし、見積もりを出すのは難しいことだと思います。

むしろ、注目すべきは前半のくだりですね。そう、シリコンバレーでは、最初からローファームが関与していることが当たり前なのです。もちろん、ローファームによって質にバラツキはあるのでしょうが、それでもローファームが関与している以上、ある程度の水準は確保できているのが通常なのでしょう。だから、最低限の情報のみであっても見積を出すことができる・・・というのようです。シリコンバレーにおけるローファームとStartupの緊密な関係を窺い知ることのできた一瞬でした。

ということで、せっかく弁護士(といっても日本の弁護士資格ですが)としてWSGRに勤務しながらSartupに関与しているのですから、これから何回かに分けて、シリコンバレーに置けるローファーム(若しくは弁護士)とStartupの関係について、気付いたことをしたためていきたいと思います。
竹内信紀