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2015年2月9日月曜日

「シリーズA」を定義する? (2)

前回の続きで、「各ラウンドで調達した資金で何をどこまでやるべきか?」ということを考えてみます。前回までの到達点は、

シリーズAとは、企業が直面する第1回の(外部からの)大規模な資金調達ラウンドのことで、歴史的に「シリーズA」という名称のPreferred Stockを発行することが(米国で)多かったことからこのように呼ばれている

という感じでした(MVPならぬMVT=Minimum Viable 定義ということで、若干の不正確はご容赦ください笑)。

今回は、更にこれに実質的な視点を持ち込んでみます。すなわち、「Seed Moneyで至るべき到達点、Series A Moneyで至るべき到達点」はどんなものなのか??を探してみます。

まずはこちら。Twitterに対するExitを経験している起業家のEladさんが2011年に書いたブログでは、

・『製品をスケールさせて、ビジネスモデルを確立する』のがシリーズAで調達した資金を用いてやるべきことであり、典型的には$7M-$15Mくらいを調達する。
・『ビジネス自体をスケールさせる』のがシリーズBで調達した資金を用いてやるべきことであり、典型的には$7M-数十Mくらいを調達する。
・『成長を加速させ、ビジネスを国際化し、M&Aで他の企業を買ったりする』のがシリーズCで調達した資金を用いてやるべきことであり、数十~数百Mを調達する。

なんてことを仰っています。これ、2015年でも同じニュアンスなのでしょうか。

今回ご紹介したいのは、著名エンジェル投資家のJason Calacanisさんのブログです。1970年生まれのJasonさんはNetscapeなどドットコム・バブルを牽引したインターネット関連企業を経たあと、超名門ベンチャーキャピタルであるSequoia Capitalなどを経て、2009年からOpen Angel Forumというエンジェル投資家と起業家を結びつけるフォーラムなどを主宰しています。その投資先も、Tumblr、Uber、Evernoteなど著名企業が含まれている、影響力のあるエンジェル投資家の一人ですね。そのJasonさんは、

・時代によってそれぞれのラウンドで調達する資金を使ってやるべきことは変わってきている。

・それぞれのラウンドで調達できる額が大きくなってきている反面、やるべきことが前倒しで要求されるようになった。

・特に、以前であればSeries A/Bでやるべきことと考えられていたことが、リーン・スタートアップの普及により、かなり初期の段階で実践しておくべき事柄に変わりつつある

ということを仰っています。以下の図1をご覧下さい。Jasonさんの仰っているこのモデル、シリコンバレーのVCさんの間ではかなり共通認識に近いものがあるようです。

図1 各ラウンドで調達した資金でやるべきこと(2015年版:Jason Calcanisさんのブログを基に作成)

リーン・スタートアップについては私は専門家ではありませんし、巷間優れた書籍やブログがあるのでそちらを見て戴いた方がいいのですが、特にPre-fundingの段階でMVP(Minimum Viable Product。エリック・リースの原著では "The MVP is that version of the product that enables a full turn of the Build-Measure-Learn loop with a minimum amount of effort and the least amount of development time."とされていますが(Eric Ries, The Lean Startup, at 77 (Crown Publishing 2011))、邦訳では「実用最小限の製品」と訳されているようです。)まで作れ、と考えられているという部分はなかなかのインパクトがありますよね。

こうやって考えてみると、以前のポストで書いた「シード段階でのバリュエーションが上がり過ぎている?」という話も、昔だったらシリーズAあたりでついたはずのバリュエーションがシード段階で付いているだけ?と考えると、納得の行く話でもあります。勿論VCからみると、ビジネスとして投資をスケールさせるのが難しくなっていくのに変わりは無いため、善し悪しだとは思うのですが。

というわけで長々とお話してきましたが、このJasonさんの考えを取り入れ、2015年版シリーズAを定義しますと、

(1) 企業が直面する第1回の大規模な(外部からの)資金調達ラウンドであって、
(2) ローンチされたMVPをスケールさせるために用いる資金を調達するものであり、
(3) その対価として、歴史的に、「シリーズA」という名称のPreferred Stockを発行することが(米国で)多かったことから、こう呼ばれているもの

ということになりそうです(これは最新過ぎる、ということであれば、(2)を「ローンチされたMVPに牽引力を持たせ、スケールさせるために用いる資金を調達するものであり」に変えてみるといいのかな?)。

もちろん以上の議論はアメリカのものであって、日本のスタートアップにそのまま持ち込まれる話ではありません。ただ、日本のVCの活動にもシリコンバレーのVCの考え方は一定程度影響を及ぼすと思いますので、近い将来、同じようなことが日本で言われることもあるかもしれませんね(個人的には、勿論シリコンバレー流を参考にすべきは参考にし、しかし日本の文化に合わないものは無理して取り入れるべきではない、と思っていますが。)。JasonさんのブログはStartup界隈のお話がとても面白く語られているので、もしご興味がありましたらまた読んでみてください。

珍しく宿題を一つ片付け、肩の荷が下りた気分でございます笑 さぁ2月も中盤戦!今週も頑張って参りましょう!

2015年2月4日水曜日

「シリーズA」を定義する? (1)

Startup界隈のお仕事に関わっていると、毎日のように「●●はシリーズAで□□から●ドル入れてもらったらしい」とか「△△はまだシードラウンドでエンジェルを探しているけれど、なかなかうまく行っていないらしい」というようなお話を聞きます。

シリーズなんちゃら、という言葉や「シード」とか「ラウンド」とか、起業された方にとっては当たり前のこれらの言葉ですが、その正確な意味はどんなものなのでしょう。

まずGoogleで「シリーズA」と検索してみたところ、「マネー辞典」さんというウェブサイトで

『ベンチャー企業に対し、ベンチャーキャピタル等が出資する段階のひとつで、起業したばかりのスタートアップ企業に対してなされる投資のこと。製品の企画、開発やそれに伴う技術開発などに対してシリーズAの投資がなされる。』

と書いてありました。ふむふむ。お次は「投資用語集」というウェブサイト、

スタートアップ企業に対してベンチャーキャピタル等が出資する初期の投資ラウンドのことで、製品の企画、開発やそれに伴う技術開発などに対して投資がなされ、事業を開始し、技術開発によって製品を生み出すことが主眼となる』

と書いてありました。ふむふむふむ、この2つは似ていますね。これに対し、個人の方が書かれているウェブサイトでは、

『(シリーズAとは)開発試作を進めている段階。有望そうなアイデアであると、VCが参入する。優先株の発行を行う。』
とか
『VCの出資を初めて受ける段階をシリーズAとよぶ。』

などと書いてあるモノがみつかりました。むむむむむ。

で、では本場のサイトではどうでしょう(以下翻訳は意訳が含まれています。周辺の文脈も含めて検討されたい場合には原典をお当たりください。)。まずInvestopediaでは

新しい企業がシードキャピタル後に経験する最初の資金調達ラウンド。一般的には、会社の支配権が外部の投資家にオファーされる最初の機会。シリーズA投資はPreferred Stockの形で提供され、その後のエクイティによる資金調達があった場合に希薄化防止条項が入る場合が多い。』(意訳部分あり)

と書いてありまして(Preferred Stockを「優先株」と訳さない理由は以前の記事をご参照下さい。)、アーリーステージのハイリスク投資を行うVCやエンジェルが投資するものだよ、とされています。

弁護士のクセにWiki引用するな!とどこからともなくお怒りの声が聞こえてきますが、ブログなのでご容赦いただき、US Wikiで調べてみます。
「セリエA」…あれ?イタリアのサッカー?という罠をかいくぐりますと、

会社の最初の実質的なVC投資ラウンドの典型的な呼び名その呼び名は、当該投資の代わりに当該投資を行った投資家に対して発行されるPreferred Stockの名称による。』

と書いてあります。おおお!遂に語源らしきものが出てきました(Wikiですが笑)。

以上の流れから分かりますように、「シリーズA」という言葉には厳密な定義はなさそうですし、少なくとも法令用語でもありません。もう少し詳しく探ってみましょう。

・米国では、1回1回の募集株式の発行(増資)のことを「ラウンド(Round)」と称していた(1997年刊行の古い書籍ですが、名著『ベンチャー投資の実務』(MVC/三井物産業務部編、日本経済新聞社)13頁))。
・「Round」の使い方としては、時系列に順番をつけて1st Round/2nd Round…と呼ぶこともあるし、会社の成長段階に応じてシード・ラウンド、アーリー・ラウンド、などと表現することもある。
・これに対し、『その時に発行する株式の名称に応じて「シリーズA・ラウンド」などと区別することもある。』(前掲・ベンチャー投資の実務13頁)。すなわち、米国では、『条件の違う優先株を各ラウンドで次々と発行していくときは、発行順に「シリーズ(またはクラス)A、B、C…」などと、名前を付けて区別する』(前掲・ベンチャー投資の実務20頁)ことが行われてきたことから、当該ラウンドで発行する株式の名前をとって「シリーズA・ラウンド」と呼んでいたものが、いつの間にか「第1回の実質的な資金調達」と意味を変化させていった、というのが正解のように思われます。

なるほど!そうすると、ニュアンスとしては「シリーズA」=第1回の大規模な資金調達、ということが言えそうですね。ただ、前々回のポストで書いたように、いまやシリーズAの前のシードラウンドで$4.5Mのバリュエーションが付いちゃう時代。$1M以上のシードマネーをVCから集めるStartupさんたちだっています。そんな世の中では、一昔前のシリーズAといまのシードラウンドの調達をうまく「大規模な資金調達」という量の問題で区別できるんでしょうか。すなわち、「なんのために調達する資金なの?」という観点を入れた方が、より厳密な定義に近づいていくのではないか、と個人的には思うわけです。

言い換えると、スタートアップ界隈の環境も状況も、変わり続けている。ってことは、「シリーズA」という言葉の定義だけでなく、「シリーズAでやるべきこと」の意味も変わり続けているのでは??

次回、各ラウンドで調達したお金で何をどこまでやると次のラウンドに進めるのか、最新の議論を追ってみたいと思います。