2015年1月7日水曜日

新株予約権のあれこれ (1)

 Startupに携わる場合に避けて通れないのが、新株予約権にまつわる基本的な事項の理解です。
 本日から何回かに分けて、新株予約権に関する基本的な事項を徒然なるままに再確認してみたいと思います。
 とはいえ、実はこの新株予約権、突き詰めるとかーなーり難しいモノの一つなのですが…

1 定義

 会社法は2条において多数の用語を定義していますが、その21号によると、新株予約権とは
   「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利」
とされています。
 もう少し具体的な表現としては、
   「権利者が(新株予約権者)が、あらかじめ定められた期間内に、あらかじめ定められた価額を株式会社に対し払い込めば、会社から一定数の当該会社の株式の交付を受けることができる権利」
と定義されています(江頭憲治郎『株式会社法〔第5版〕』775頁、有斐閣・2014年)。
 つまり、
   「2015年1月7日から3月7日までの2ヶ月間の間、株式会社BLI(BizLawInfo)の株式を、一株1000円で買う権利」
のような権利のことを、新株予約権、と呼んでいるわけです。
 ちなみに筆者が教わったところでは、アメリカでは新株予約権のことを端的に
   株式のコール・オプション
と説明しています。Corporate Financeの授業では、デリバティブの説明の最初に、コールとプットの両オプションを説明する過程で出てくるものでした(勿論新株予約権自体の経済的価値評価の方法の説明は別です。)。

2 ストックオプション?CB?

 この新株予約権ですが、日本ではしばしば「ストック・オプション」や「CB」と同義に利用されることがあります。が、日本法の下では、厳密には
   ストック・オプション⇒新株予約権
   CB⇒新株予約権
という関係は、まぁざっくり正しいと言えますが、逆は必ずしも真ならず。
   新株予約権⇒ストック・オプション
   新株予約権⇒CB
は間違い、ということになります。ベン図で言うと、大きな「新株予約権」の中に「ストック・オプション」と「CB」というそれぞれの領域がある、ということになるでしょう。
 日本では、一般的に、「ストック・オプション」とは役員又は従業員に対していわゆるインセンティヴ報酬の趣旨で付与される新株予約権を指す場合が多く、「CB」は転換社債型新株予約権付社債という形を採ることと整理されています。
 このあたり、アメリカの制度と細かいところを比較すると結構面白いのですが、それはまたいつかどこかで…

3 CB与太話

 ちょっと話が逸れますが、シリコンバレー界隈の皆さんが「シードラウンドはCBにしよう」「エンジェルからCBで出して貰え」と話しているCBは、もちろん
   Convertible Bond
の頭文字です。
 このCB、まんま直訳すると
   転換社債
となります。つまり、CBは、元々は転換社債を指すものだったのでしょう。現在の会社法の下では「転換社債」という名前の社債は存在せず、あくまで転換社債「型」(=予約権の行使の場合に社債が消滅するタイプ)の新株予約権がくっついた社債、と整理がされているため、日本のStartupから「CBを発行したい」というご希望を戴いた場合には、
   転換社債型新株予約権付社債
という非常に長いお名前の権利の発行の準備をすることになります。

 ここで地味にポイントになるのは、この日本版CB、「新株予約権」がくっついているためもあり、その内容を登記しなければならん、ということです。ということは、
   登記の必要書類
を揃えなければならない上に、その書類の内容に不備がないか、
   法務局のチェックを受ける
ということになります。そうすると、いつ登記申請に持ち込むかというタイミングの問題は別として、
   日本でCBの発行手続を行う場合、それなりに時間がかかる
ということになります。

   「一刻もはやくプロトタイプを作りたい!同じようなことを考えているヤツがいるらしい…!」
   「良いペースで改良を重ねていたのに、資金が底を尽きつつある…」
というようなアーリーステージの場面、
   「そろそろシリーズBも見えてこようかというときに資金繰りが悪化しつつあったが、アメリカのVCがファイナンスに応じてくれることになった!」
というようなミドルステージの場面など、CBを活用する場面はいくらでもあり得るでしょう。
 そのような場合に、(そもそも投資家を探すこと自体が一番難しいですが)せっかくCBを引き受けてくれる人が見つかっても、実際に資金を払い込んでもらうまでにはある程度時間がかかる、ということになってしまいます。

 特にシードステージなどでは、エンジェルからの資金がないとアルファ版をリリースすることもできない場合もあるはずで、これだけ競争が激しいと資金調達の1ヶ月の遅れが後々まで響く、ということだってあるはずです(現に、Startupの皆さんは本当に時間を大切にされていますよね。)。
 
 本業に集中するために、Founderが資金調達で悩むことがないと良いのですが、実際は資金調達と人材確保に奔走されている方も多いはず。このブログが、そのような方の役にも立つように、これからもボチボチと更新を続けていきます。