2015年1月30日金曜日

シード・バリュエーションに関する与太話

Waze、というアプリをご存じでしょうか。Waze Inc.という会社が提供している無料のカーナビアプリで、日本語版もあります。

(Wazeのウェブサイトより)
我々が現在住んでいるカリフォルニアでは、このアプリは極めて有名だったりします。何故か。それは、内容的にユニークな特徴をもっているアプリであることは勿論ですが、Googleが2013年6月に約$1B(現在のレートだと1200億円近く)で買収したこと、という大きなニュースがあったからでもあります。

日本で使われている方も増えているかもしれませんが、このアプリ、使用しているユーザの走行スピードを統計上の走行スピードと照会して渋滞や道路の流れを表示したり、カーナビとして使用中に「警察官がいるよ」とか簡単にアイコン入力できることから、分母である使用ユーザ数が多ければ多いほど「リアルタイム」の道路情報を表示することができます。

渋滞を避けるルートの計算アルゴリズムは若干まだ「?」と思うときも、ないではありません。が、発想としては極めて素直ですし、何より渋滞のリアルタイム情報が取れるのはとても便利。Google Mapを有するGoogleが買うのも、よくよく分かります。他方、警察が懸念を示して警察のトラッキング機能を外せないかと何度も議論になるなど、物議を醸す程度以上に普及している、ということが言えそうです(日本だと道が細いので、アメリカ版のUIのアニメっぽいユーザアイコンだと道が見えないかもしれませんね笑)。

お次はOutbrain。コンテンツ・リコメンド・エンジンというサービスを用いた広告会社で、ちょっと不正確を恐れずに言えば、検索エンジンをも〜っと目的とユーザによってカスタマイズしたようなサービスと、関連する情報などを主な収益源としているようです。

(Outbrainウェブサイトより)
このOutbrain、昨年(2014年)末に、そろそろIPOをするのかなーなんて観測が良くでておりました。EVは少なくとも$1Bと、こちらも素晴らしい規模の会社です。既にIPOのための初期的なファイリングは済ませており、適切な時期を探っている段階と言われています。

さてさて、ちょっと回りくどい文章になってしまいましたが、このWazeとOutbrainの共通点は何でしょうか。それは、イスラエルの企業であること(この2社はイスラエルの企業であることもよく知られている要因なので、「何を今更」という感じですね、、、すみません。)。

このイスラエル、これまたご存じのとおり世界を席巻する「Startup Nation」として、テルアビブにはたくさんのインキュベータ/アクセラレータがあると言われていますし(行ったことないですが)、日本からもサムライインキュベートさんがSamurai Houseをお持ちであったりトヨタさんがイベントを開催したりと、極めて盛り上がっているようです(このサイトを見ると、テルアビブ界隈が如何に盛り上がっているかよく分かります。)。

シリコンバレーのVC業界の方とお話していると、イスラエルのStartupの話は頻繁に出てきます。それは、優秀な方が多く、優秀なStarupが多く、そして何より、エンジェルステージでのバリュエーションが適切なレベルに抑えられているため、アーリー投資がし易い、というお話です(あと、意外とヘルステック系の会社が多くて面白いなんて意見も。)。

それもそのはず、2014年のシリコンバレーのテック系Startupのエンジェルステージ平均バリュエーションは、なんと$4.7MAngelListによる)!
こちらのVCの方々とお話させていただくと、エンジェルステージでのバリュエーションは$1.5M-2.5M程度であるべきだという意見に比較的同調されている方が多い印象です。そうだとするとやはり2倍近いバリュエーションが付いてしまっているのが実情、ということになりますでしょうか。

残念ながら公表されている利用可能なデータでイスラエルのStartupのシードラウンドの平均バリュエーションがでているモノを見つけられていないのですが、口頭ベースの噂では、イスラエルのStartupのシード・バリュエーションは、この「適正なレンジ」に収まっていることが多いとのこと。それでWazeやOutbrainのように輝かしいExitが見据えられる企業が雨後の筍のように出てくるのですから、それはもうVCさんたちが放っておくはずがありません。

翻って我が日本でも、日経1月30日付朝刊にジャフコの執行役員の方の「投資現場で過熱感がでている」というコメントが載っておりましたこともあり、今日はこんなポストを書いてみました。

世界共通の流れとしてバリュエーションが上がっているということなのでしょうか。宿題だらけになってきましたが、来週は「シリーズなんちゃら」って結局なんなの?という話を取り上げようかな、と思っております。

今週末はスーパーボウル!よい週末をお過ごし下さい!




2015年1月28日水曜日

日本とアメリカ、どちらに会社を作るべきか?(2)

前回の投稿で、相方がこっちにボールを投げてきましたねぇ。ええ、イイ球です。ズバッと真ん中に投げ込んできました。
この場合、驚きのあまり思わず見逃し、気持ちを切り替えて次の球に狙いを絞る・・・なんてことはしません(笑)。好球必打、打ちにいってやろうと思います。

さて、

「日本とアメリカのどちらで会社を作った方が良いか」

このテーマは、シリコンバレー、さらには世界を見据えて起業しようとしている方に取って、まずぶつかる法的な問題なのかもしれません。

相方は、「VCからの視点」ということで、シリコンバレーのVCは、原則としてアメリカ法人にしかお金を入れない、だからシリコンバレーのVCからお金を調達することを目論んでいるのであれば、米国法人が選択肢としてあがってくるというお話をしていました。

では、「会社からの視点」ではどうなるのでしょうか?

WSGRでは、基本的に会社側に立ってアドバイスを提供していますが、その際に何か違いが出てくるのでしょうか?

答えは「

実は、日本法人を選択するか米国法人を選択するかで、VCからの資金調達の可能性と方向性が大きく変わってくることは、この手の悩みを抱えているスタートアップの方に、いの一番にお話する内容です。

なぜなら、最初から潤沢な資金を持ち合わせている例外的な場合を除き、ほとんどのスタートアップが、ビジネスを発展させていくに足るだけの資金を持ち合わせておらず、遅かれ早かれ外部から資金を調達する必要があるからです。

そのため、どちらの法人が望ましいか悩まれているスタートアップの方には、資金調達を最初からシリコンバレーで行うつもりであればデラウェア法人(なぜデラウェアかは追って説明します。)、日本で行うつもりであれば日本法人、というアドバイスをすることが一般的です。

要するに、「当面の資金調達先として日本とアメリカのどちらを考えているのか」ということがメインです。もちろん、スタートしようとしているビジネスがアメリカで受け入れられやすいのか、逆に日本で受け入れられやすいのか等、ビジネスの内容等も考慮する必要はあるとは思うのですが、結局アメリカで受け入れられやすいビジネスであれば、地元アメリカのVCがまずは興味をもつはずで、そうなるとアメリカのVCから資金調達することを念頭に置いた方が合理的、ならばアメリカ法人にしましょうかということになると思いますし、逆もまたしかりですね。結局のところ、当面の資金調達先が日本なのかアメリカなのか、その点に尽きるのではないかと思います。

ただ、ここで一点誤解しないようにしたいのは、「日本での資金調達がメイン→世界で戦えない」という図式には必ずしもならないということです。もちろん、ビジネスの内容が日本特有のものであり、したがって日本の投資家しか惹き付けられなかったというのであれば話は別ですが、日本で資金を調達したからといって世界で戦えなくなる必然性は無い訳です。周りを見渡せば、日本の株式会社のままで世界で戦っている会社さんがゴマンといますしね。むしろ、日本で資金調達がしやすいのであれば、まずは日本で資金を得て速やかに成長させ、その後にアメリカで資金調達を目論んでも遅くはありません。その際に、親会社をデラウェア法人にする必要があるのであれば、課税が生じないようにしながらそれを実現する方法も考案されています(この点もおいおい説明します。)。

長くなりましたが、日本法人かアメリカ法人かを検討するにあたって意識すべき最重要ポイントは、

「ビジネスを成長させる。そのための資金は日米どちらが調達しやすいか。」

ということなのだろうと思います。

せっかく法人の話になりましたので、今後、日米をまたにかけながら(多分)、各法人の特徴や設立手続、費用等々について、基本的なことを書いていきたいと思います。
竹内信紀


2015年1月27日火曜日

日本とアメリカ、どちらに会社を作るべきか? (1)

読者の方が、あるビジネスの実行を検討しているとします。そのビジネスは日本国内に止まるものではありません。世界最大のGDPを誇るアメリカを通じ、世界で戦っていくべきビジネスだとします。

さて、そのときに、一体会社は日本とアメリカのどちらに作るべきなのでしょうか?

実はこの問題、多くの起業家の方が直面している難問であり、綺麗に場合分けしていけばコレという正解が出てくるものではありません。会社のビジネスモデル、目指す姿など、それぞれの状況に応じて答えが変わってくるものです。

まず、以下の図をご覧下さい。ここには書いてありませんが、勿論、アメリカに会社を作った場合の最大のメリットは、①ビジネスを最初から世界展開できる、②資金調達に成功した場合に調達できる額が大きい、ということになりますよね。

が、しかし。色々な問題が出てきそうですよ。


今回は、これらの項目のうち、「VCから見ると」を取り上げます。つまり、VCからの資金調達を目指す起業家の方にとって、日米のどちらに法人を持っていると有利か、という問題を考えてみます(あれ?設立コストとか、他の項目は?? 大丈夫、いつか書きます。多分主に相棒が。)。

米国のVCからみたとき、一つ大きく言えることがあります。それは、

比較的アーリーステージで米国VCからファイナンスをしたい場合、米国に会社がないと難しい

ということです。勿論例外もあるでしょうし、例えばイーロン・マスクさんが出身である南アフリカに会社を設立してファイナンスを求めれば、米国のVCはそれに応じるでしょう。しかし、一般的に言って、米国の、特にパロアルトはサンド・ヒル・ロードを中心とするシリコンバレーのVCが、米国外の法人にアーリー投資を実行することはありません。

つまり、最初から起業家の方が米国での資金調達を意識している場合、米国に会社を作っておいた方がいい可能性が出てくることになります(本論からは外れますが、日本法人の子会社として米国会社を用意しても、米国VC側から見ると日本の親会社に対して投資しなければキャピタルゲインが得られないため、あまり意味がないという評価になるでしょう。)。

これに対し、日本のVCはどうでしょうか?

日本のVCの中には、確かに、日本の株式会社にしか投資しないというポリシーをお持ちのところが多くあります。それは、例えばファンドへの出資者への説明のし易さなどの観点から考えれば、十分合理性のある考え方だということが分かります。

これに対し、日本のVCの中には、米国を初めとする海外の会社への投資に全く差し支えがないというところもあり、近時はそのようなVCさんも増えているやに聞きます。そうすると、日本のVCからの資金調達という観点は「米国法人を設立することのデメリットになる」とまでは言えない、ということになりそうです。

「ならアメリカで設立すればいいじゃないか!」
「必要なら日本に子会社を作ってもいい。それなら米国VCからのファイナンスにも差し支えないんでしょ?」

という声が聞こえてきそうですが、、、確かに最近ではアメリカ法人を最初から設立して世界で戦っていこうとするStartupさんが増えています。しかし、やはり海外で会社を設立してビジネスを展開するということは、楽ではありません。上図の他の項目のような、有形無形の問題が降りかかってきます(そもそも米国VCから資金調達をすること自体が極めて難しいと言えますが、競争力の問題が主なのでその観点は一先ず措きます。)。

それから、ビザ問題です。実はこれがまた大問題。アメリカほどエンジェル/シードラウンドで調達できる額が多くない日本から、投資ビザ(E2)を取得するほどのエクイティを米国に持ち込むことができるでしょうか。企業の駐在でいらっしゃっておられる方は特に意識することはないと思いますが、本気で米国で事業をやっていこうとする方には死活問題です。

今日はちょっと長くなってしまいましたので、また次回以降、続けます(関係ないテーマを挟んだらゴメンナサイ。。)。


気付けば一月も最終週。早すぎる時の流れに焦るばかりですが、今週も張り切って参りましょう!

2015年1月23日金曜日

StartupとLaw Firm(5)

(5)Fee体系

Startupの方々がローファームに依頼するにあたって最も気にされる点、それリーガルフィーではないかと思います。

「日本の大手事務所は高い。アメリカのローファームは目が飛び出るくらい高い。」

そんな印象をお持ちの方、かなり多いのではないかと思います。

日本の大手事務所もアメリカのローファームも、基本的にタイムチャージベースで仕事の依頼を受けることには変わりないのですが、まず大きく違うのが時間あたりのレート。日本の大手事務所ですと、若手のアソシエイトが大体1時間あたり2万円前後からスタートし、キャリアを積むごとにレートが上がっていき、パートナークラスになれば、3万とか4万円とか5万円になります。

これに対して、米国のローファームは、やはり俄然高し。ファームにもよりますが、大手になれば、アソシエイトレベルで時間あたり$400$500チャージすることも珍しくなく、パートナークラスになると$800から$1000、あるいはそれ以上をチャージすることもままあります。

それはそれで、それだけの価値があるといえる場合がほとんどだとは思うのですが、それにしても高いですよね。日本のローファームですら高いと感じる日本人(実際払う身になってみると分かりますが、ぶっちゃけ高いです。)、そして、そもそも論としてお金がないStartupの方々には、米国ローファームのリーガルフィーなんて、それこそ目からビームが出てしまうくらい高いと感じることでしょう。

…が、これは何も日本人に限ったことではありません。シリコンバレーのStartupだって、もちろんお金がありません。将来資金調達できる可能性は日本より高いのかもしれませんが、手元不如意な状況なわけです。

そんなStartupに継続的にリーガルサービスを提供しようとする以上、ローファーム側も、フィー体系を工夫し、Startupが利用しやすくする一方で、過度にローファーム側がリスクを背負い込まない形のフィーを提案しています。例えば:

   ディファーラル
Startup関連法務の初期費用の支払いを、最初の資金調達(50万ドルなど、一定の水準のもの)実行時まで猶予することがあります。ただし、リスクを抑えるべく、一定の金額(2万ドルや3万ドル)までリーガルサービスを提供したら、それ以降はリーガルサービスを提供しません。

   株式の引受
Startupからフィーを回収できないリスクや、そのStartupの有望性等に応じて、ファウンダーが最初に株式を引き受けるのと同じ価格(通常は1株あたり0.00001ドルなどノミナルな額)で、ローファームも数%株式を引き受けさせてもらうことがあります。

   デポジット
万が一の場合の実費等の支払に充当するため、委任を受ける段階で一定額のデポジット(例えば1000ドル)をお願いすることがあります。

日本人が思いつく「Startupが利用しやすくする」方法の典型であるフィーの割引は、あまり見かけません。これはおそらく、Startupからの依頼が膨大だからなのかなと思います。膨大な数のStartupにフィーの割引を提供したら、そのフィーがスタンダードになっちゃうかもしれないですからね。

また、フィーキャップも、特にStartup初期の法務関係ではあまり見かけません。もちろん、 フィーキャップで対応しているファームもあるのだろうとは思いますが、そもそも、キャップがあろうがあるまいが、お金がない以上は払えないですからね。そうであれば、払える段階になったときにこれまで提供したサービスの分は、通常通りしっかりと払ってもらうという方が、合理的なのかもしれません。

Startupからいただくリーガルフィーの体系には、色々と工夫の余地があるのだと思います。その工夫をするためには、Startup市場を正確に把握し、回収不能になるリスクと資金調達等に成功する可能性等を色々分析しながら考える必要があるのでしょうが、残念ながらこれ、多くの日本の弁護士の苦手分野です(苦笑)。でもStartupの支援をしようとする以上、避けては通れない道の1つだと思いますので、四苦八苦しながらやっていかねば!…と意気盛んになったり、「外注」という言葉が急に頭をもたげてみたり。。。

すいません、収拾がつかなくなりました(笑)。
ということで(?)、今日は金曜日、がんばっていきましょう!

竹内信紀

2015年1月19日月曜日

先端技術と未来社会 (2) Health Care界隈のStartup

先週、サンフランシスコ市内はJPモルガンが主催するヘルスケア関連のイベントが目白押しでした。ちょうど年明けのラスベガスCESに世界中の電機関係の方が集まるのと同じように、世界中から、ヘルスケア関連事業を行われている方や、当該業界に関心のある投資家などがサンフランシスコ市内に集っていました。

そんな中私が参加したのはこちら↓。


StartupHealthという名の、ヘルスケア関連のインキュベーション兼投資家のような役割を果たしている団体が開催した、ヘルスケア関係のスタートアップのピッチ&デモです。

55社という結構な数のスタートアップが参加していたこともあり、ここでは逐一その内容に触れることはしませんが、一つなかなか面白い視点がありましたのでご報告します。それは、「ヘルスケア関連のスタートアップの分類」です。

このイベントでは、参加しているスタートアップを以下のように分類していました。

   「Provider Efficiency」
   「Changing Patient Behavior」
   「Continuing Care Between Visits」
   「Data and Devices」
   「Senior and Home Care」
   「Care Access and Navigation」

それぞれのざっくりとした内容は以下の通り。

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Provider Efficiency」…患者さんと医師の間のアポイント調整を合理化するアプリや、患者さんがドタキャンしてしまい空いたアポイント時間に診察を希望する人をマッチアップするアプリ・サービスなど、円滑な医療サービスの提供をサポートするビジネス。

Changing Patient Behavior」…生活習慣病など、日常的な記録やサポートが重要な慢性疾患をマネージするアプリやサービスなどを用いたビジネス。

Continuing Care Between Visits」…病院を訪問して診察を受ける機会と機会の間(例えば月に一度病院に罹っている方の、診察と診察の間の一ヶ月)をマネージするサービス。処方箋の提供・処理といった薬事周りのサービスや、発展途上の国に対する医療機会の提供という観点から構築されたサービスなど。

Data and Devices」…クラウドベースでのゲノム分析と「予測医療」(何年以内にどういった病気になる可能性が統計上高い、といったデータ分析提供など)、カードサイズの血液検査キット(しかも患者が自ら処理できるためラボに送って次回検査時に診断、という手間が省ける)、医師同士が比較的珍しい病気の発生などを記録する疫学的なデータベースに関するビジネスなど。

Senior and Home Care」…オンラインでの介護ケア合理化サービス、各種ウェアラブルの開発など。

Care Access and Navigation」…医師への支払い(アメリカでは病院への支払いと医師への支払いが別々に請求されます。)をするプラットフォームの提供、医療サービスにかかった費用をマネージするサービスなどのビジネス。

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どうでしょう、なかなか面白い分析だと思いませんか?

近い将来、突然病院に行きたくなったときはスマートフォンのアプリで「お腹が痛い」ボタンを押せば、GPSで近くの病院で空いているお医者さんに予約が入るようになるかもしれません。診察後の支払いはスマートフォン経由のクレジットカードでサササっと済ませ、処方箋は支払いと共にスマートフォンにバーコードが送られてくるようになる。診察の前後にかかる時間はとても短縮され、ちょっとした隙間の時間でお医者さんの診察を受けられるようになる、そんな未来はもうすぐそこにありそうです。

そして、将来的には、オンラインでの診察という時代もきっと来るのでしょう。日本では医療関連の法律やその解釈の課題があり、すぐに実現するのは難しいかもしれません。

でも、ニーズがあり、お医者さんが満足のいく診断をすることができる環境を整えることができれば、きっとそういう未来がやってくるはずです。そしてそれは、遠隔地での医療問題など、社会的に解決すべき課題に資する方向であることは間違いないはず。安全という第一に重視すべき課題を大切にしながら、そんな未来がやってくるときのための準備も、少しずつ始めたいものです。


2015年1月16日金曜日

StartupとLaw Firm(4)


(4)クライアント向けコメント

日本の、しかも大手と言われる事務所で実務をやっていると、「クライアント向けコメント」を契約書なり、作成・修正中の書面に書いて、クライアントからの質問に答えたり、クライアントに検討を促したり、条項の趣旨を説明したり、なんやかんや色々書いて、ついでに目立つようにハイライトつけて…なんてことをするのが当たり前になってくるのですが、これ、意外と手間のかかる作業です。コメントが記録に残るし、正確性も担保できる面もあるので、良い面もあるのですが、その一方で、間違いなく手間はかかりますし、クライアントとのやりとりも1回(もしくはそれ以上に)増えることも多い気がします。

で、シリコンバレーのLaw Firmですが、基本的にそんなしちめんどくさいことはしません。時間もかかるし、クライアントの方も「検討してくれって言われても、ぶっちゃけよく分からんよ!」ということも多いらしく、条項に関していくつか選択肢があったり、数字を入れなければならない時も、[ ]とかつけてクライアントに投げるのはご法度です。

基本的に、こちら側で、これまでの実務経験を踏まえてクライアントに最適と思われる条項に仕上げ、数字を([ ]とか一切つけずに)入れて提示し、クライアントから特にコメントがなければ、そのままその案で突き進みます([ ]をつけるのは、日付だとか、金額がまだ当事者間で決まっていないとか、そういった形式的なものがほとんどです。)。

質問があった場合でも、たまにワードのコメント機能を使ってコメントバックしてくるクライアントもいらっしゃいますが、基本的には、簡単な単発の質問であればメールで済ませ、数が多かったりまとめて議論したほうが良いような場合には、電話して一挙に解決して、その結果を書面に反映して終わらせます(その書面の中に、【お電話でお話させていただいたとおり・・・(云々)】みたいなコメントはもちろんつけません笑)。

どちらのやり方がいいのかは、一概には言えないのかもしれませんが、Law FirmがビジネスとしてStartupのリーガルサポートを継続的にやっていくためには、「ある程度数をこなす必要がある」という命題が、大前提としてあると思います。それに、「Startupの人も(多くの場合)経験がない。だってStartupもの。」という小前提を掛け合わせると、日本で日常的にやっていた実務対応は、やはり現実的ではないなと感じるところです。

結局のところ、ケース・バイ・ケースという話に落ち着くのかもしれませんが、「どうやって合理的に仕事をこなしていくか」という視点は、忘れないようにしたいところです。
竹内信紀

優先株?

日本で「優先株」というと、会社が配当をする際、普通の株を持っている人より受け取ることの出来る配当金額の多い株を指す場合が多いと思います。

例えば、ここシリコンバレーでも大活躍の伊藤園さんの開示情報を見てみましょう。
(伊藤園さんは英語で書くとITOEN、IT応援ですね!Evernoteは勿論、Facebookなど様々なシリコンバレーの企業や小売店で伊藤園さんのお茶は大変親しまれています。よく知られているお話ですが、その営業の道筋は本当に頭が下がる思いです。)。

伊藤園さんが2007年に上場した優先株は、普通株の配当に対して125%の配当金を受け取ることができる、というように設計されています。
(平成26年7月24日開催の株式会社伊藤園第49回定時株主総会参考書類より)

つまり、ある年の伊藤園さんの普通株主が保有する株式一株に対し100円の配当金が支払われる場合、優先株を保有していると125円の配当金を受け取ることができることになります(ちなみに原則として議決権(株主総会で株主として決議に参加する権利)は認められないように設計されています。この辺りについてはいずれまた。)。

このように、日本では、「優先株」とは配当(厳密には残余財産の分配、すなわち会社の清算時に債権者に対する支払いが終わった後の財産の分配の場面もカバーするのですが)のときに有利な株、という語感があります。

これに対し、アメリカで「優先株」の翻訳元?と思われる「Prefered Stock」と言ったとき、少し事情が違います。Prefered Stockは、どちらかというと日本語で言うところの「種類株」のニュアンスに近いのです。

こちらのVCの投資でもCBやCNではなく株式に対して出資する場合には、特にシードラウンドやシリーズAなどのアーリーステージの場合、Prefered Stockが用いられる場合が多くなっています(というか、イメージとしては普通株のケースが少ない、という感じでしょうか。)。
注:日本ではVCがアーリーステージのStartupに普通株で出資することもまだまだあるようです。追って状況を纏めてみます。1月17日追記。

その内容は正に千差万別。M&AというEXITを迎えることになった場合に当該優先株主であるVCが賛成するのであれば、例え少数株主が反対してもそれを承認できるように設計されていたり、次の資金調達ラウンドにおけるバリュエーションを加味して更に株を買い増すことができるようになっていたり。

正に日本では種類株式として設計するものですが、アメリカでは「普通株=Common Stock」に「優先=Prefered」する権利、と呼ばれているというわけでした。ちなみにprefered stockはそれぞれ正にtaylor madeな内容となっていますが、それだけにStartup側から見るとかなり制約の強いものも作ることができるというのも事実。ですから、こちらのStartupは日本と異なり、かなり初期の段階から出資を受け入れるフェーズでは弁護士をきちんと使うことが多いです。

最初アメリカに来てこちらの投資家の方のお話を聞いていたとき、優先株がどうしたこうしたという話になり、どうも違和感があったことが思い出されます。というのも、スタートアップは配当なんか一般的には(ほとんど)しませんよね。事業拡大に向けて資金は常に必要ですし、配当を期待しているVCやエンジェル(特に第1回の大きな資金調達であるシリーズAまでの、正に初期段階の活動資金を個人で出資する方)は聞いたことがありません。そのため、「なんで優先株なんか欲しいんだろうなぁ」と思っていたのですが、それは大きな勘違い。その内容は日本の「優先株」と必ずしも同じではなかったのでした。

皆様、あと一日で週末です!明日も頑張りましょう!



2015年1月15日木曜日

StartupとLaw Firm(3)

(2)数字
Startupに限ったことなのかもしれませんが、シリコンバレーでは、ローファームが、純粋な法律相談のみならず、資本構成やファイナンス前後での持ち株比率・希釈化率の計算を行います。
例えば、Series Aのファイナンスを検討するにあたって、そのファイナンスが既存株主にどのような影響を与えるか、Series Aファイナンスの前にブリッジとしてConvertible Note(一定の金額以上でのファイナンスが行われた際に、当該Noteの元本及び利息が、当該ファイナンスで発行される株式に自動的に転換される旨の条項等がついた借り入れのこと)が発行されていた場合には、検討中のSeries Aファイナンスによって、そのConvertible Noteがどのように株式に転換されるのか等を計算し、Series Aファイナンスが実行された後の資本構成等を試算したCap Table(Pro Forma Cap Table)、その作成も、基本的にはLaw Firmが対応します。
この計算が意外と面倒で、もちろんエクセルを使って行うのですが、Convertible Noteが複数にわたって発行されていて、NoteごとにDiscount RateやValuation Capが違っていたりすると(なんのこっちゃ分からんと思われるかもしれませんが、これらの用語については、おいおいブログ内で解説しようと思います。)、結構複雑な計算が必要になります。これに、「ファイナンス後のOption Poolがファイナンス後の発行済総株式数(Option Poolを含む)の10%になるように、ファイナンス前にOption Poolを増加させる」なんて命題が加わると、エクセル内で計算式が循環しだして、えらい目にあったりするわけです。
この手の業務は、日本では弁護士があまりやらず、会計士さんですとか数字に強いアドバイザーが対応することが多いと思うのですが、考えてみると、これらの計算の根拠は、弁護士が作った契約書等に基づいてはじき出されているのですから、計算式を理解し、一番正確に計算できる(はず)の人も、弁護士のはずなのです。だから、本来はこのような計算業務も弁護士がやるのが妥当なはずなのです!・・・が、いかんせん、この手の業務が必要になってきた段階で、この手の計算業務を対応できる弁護士がほとんどいなかった(+弁護士の絶対数が少なく、殿様商売的な面もあったため、対応しようとする弁護士もほとんどいなかった)ため、いつのまにか他の専門職の方の仕事になり、そのまま現在に至っているのかもしれません(僕の勝手な想像ですけどね。)。
長くなってしまいましたが、何を言いたいかというと、シリコンバレーでは、Law Firmが、純粋な法律業務だけにとどまらずしっかり数字にも関与し、日本は他の専門職の方がやっている業務まで対応している(もちろん全部ではありませんが)ということです。
すなわち 「Law Firmに行けば、とりあえずStartupに必要な一通りのサービスは受けられる」 だからこそ、シリコンバレーの生態系にLaw Firmがしっかりと根付いているのだろうと思います。
竹内信紀

2015年1月13日火曜日

Kickstarterの数字あれこれ

「クラウドファンディング」がバズワードだった時代は(とっくに)終わった、なんてことが巷間言われておりますが、ここアメリカでメジャーなクラウドファンディング・プラットフォームと言えばKickstarter。Indiegogoも双璧と言って良い実績を残していますが、それでもやはりKickstarterの知名度・普及具合は一枚上手のように感じます。

何を隠そう私も、無事プロジェクトが成功して製造完了待ちの品が2つほどありまして、ときたまプロジェクトオーナーから送られてくる進捗メールをみてヤキモキしております。

そんなKickstarter、2010年4月に創業したNYベースの企業ですが、Indiegogoと異なり、そのプロジェクトに関する詳細なスタッツを公表しています。これがなかなか興味深く、最近出た2014年のスタッツを含めて少し覗いてみましょう。

創業以来成立、プロジェクトを立てた人が設定した目標金額以上にBacker(Kickstarterではそのプロジェクトのパトロンさんのことをこう呼びます。他のプラットフォームではパトロンと直球表現が使われていることの方が多いみたいですね。)が資金提供を約束したプロジェクト数は77,214件で、集まった総額は$1476M。なんと日本円に換算すると1771億円(1USD=120JPY換算)!

2010年に創業して以来、今度の4月で満5年を迎えるKickstarterの存在感が分かりますね。プロジェクトの成功率は39.68%となっており、約4割と考えるとなかなか悪くない数字ですねぇ。僕も実車可能なアンパンマン型4輪車を作って出してみたい…

翻って直近年である2014年1年間の動きはどうだったのでしょうか。

2014年、Kickstarterが集めた金額は529M。上記レートで換算すると約635億円になります。Kickstarterの取り分は集まった額に対し5%ですから、約$26.5Mが昨年1年間の売上高、ということになりそうです(実際には、プロジェクトオーナーはAmazonに対し、更に決済システム利用代金を3%ほど支払います。)。日本円にして約32億円。プラットフォームである以上、それ自体のみならず、色々とBackerやプロジェクトオーナーに関する情報や統計をマーケティング等に活用しているはずですから、売上高はもっと高いとは思いますが、財務情報はさすがに公開されていないので笑、いつか上場したときを楽しみに待ってみましょう。

2014年、Kickstarterで最もプロジェクトの成功数が多かったのは8月(続いて10月)。BackerがPledge(このプロジェクトが成立したら、いくら支払うよ〜という約束)した数が最も多かったのは水曜日。そしてこれはスタッツ上明らかではありませんが、噂ではプロジェクト応募期間は最大30日程度にした方が人が集まりやすいとのこと。ということは。

今年なら、8月5日水曜日から9月2日水曜日までの28日間

くらいでローンチすることを目標に、今から試作品を作り始めると、、、あなたのアンパンマン号も実現するかも!

あ、そうか、まずはライセンス交渉か…。

皆様プロジェクトの検討はお早めに。


2015年1月10日土曜日

イーロン!

このブログ、基本的には休日に投稿する予定はないのですが、今日はちとニュースがあったので、ちょっとだけ。

皆様ご存じのイーロン・マスク(Elon Musk)氏がCEO兼ファウンダーのSpaceX社が、ロケットを発射するも「回収試験は失敗」というトーンで、Yahoo!トピックスや元記事のCNN.co.jpの記事が紹介されています。「惜しかった」という声もあるようですから、きっとすぐ成功するのでしょう。

SpaceXは現在私が修行をさせていただいているVCが所属しているグループのVCが投資していることもこの記事なんかには書いてありますが、そのイーロン・マスクさん、起業からExitを経験して莫大な資金を手にし、後のPaypalを創業したりTeslaやSolarCityのようなクリーンテックの企業に携わり、はたまたSpaceXのように宇宙にまで乗り出す、正にシリコンバレーを代表する「シリアル・アントレプレナー」(連続起業家。次から次へと起業する人。)の一人です(と説明するのも恥ずかしいくらいの有名人ですね。昨年の訪日の際には歌舞伎町の二郎を召し上がっていました。)。

さて、今週、そのイーロンさんについて地味〜にシリコンバレーの一部で盛り上がりを見せていたのが、

イーロン・マスク氏、二度目の離婚

というニュースです。イーロンさん、1回目の離婚後、1回目の結婚相手と再婚(やり直し婚)をして、また離婚した、というのです。勿論ここはアメリカ、日本とはケタの違う財産(16M!)も元奥様に渡ります。

このニュースを見た、アメリカで活躍されているとある投資家が一言。

この元奥さん、再投資の時点でExit戦略見えてたんだな…すごい投資家だ…

さすがです。皆様、よい週末を。

2015年1月9日金曜日

StartupとLaw Firm(2)

シリコンバレーにおけるStartupとLaw Firmということで、日本での弁護士業務の経験とWSGRでの経験を比べて、気付いたことをツラツラと書いてみようと思います。
法律関係の情報提供などという高尚なものではありませんが、気楽な読み物としてお読みいただければと思います。

(1)会社関連資料の管理
日本では、少なくとも会社関係の基本資料(定款、取締役会議事録、株主総会議事録、契約書等々)の原本管理はクライアントである会社の役目であり、その他の記録の管理も基本的には会社にお願いしているのではないかと思います。

これは、基本的にStartupがクライアントであっても変わりません。

もちろん、事務所側で作成したドラフト等は、事務所に保存されているのですが、最終版(サインされたバージョン)まできちんと写しなりPDFなりで送ってもらい管理しているかというと、必ずしもそうではないと思います。

ところが、シリコンバレー(というか少なくともWSGR)では、基本的には最終版(サインされたバージョン)を必ずクライアントから送ってもらい、きちんとデータベースで管理します。

聞くところによると、電子データのみならず、原本の保管まで行っている法律事務所もあるようです。

それで、いざ資金調達の局面になり、投資家サイドによるDDが必要になった場合には、Law Firmの方でデータルーム(といってもオンラインですが)を作り、我々のほうで保管してある資料をアップし、DDに供します。なので、データルームの設置からDDまで、かなりスムーズに進みます。

もちろん、クライアントによっては、それを好まないところもあるようですし、諸般の事情により記録の管理が行き届いておらず、あたふたしたり、アップデートに追われることもあったりなかったりするわけですが(だって人間だもの。)、基本スタンスは「Law Firmで管理」であり、単なる個別の法律業務の外注先ではなく、総務/法務機能の総合的なアウトソース先として機能していると言えば、分かりやすいのかもしれません(ちょっと言い過ぎのような気もしないではないですが)。

実はこれ、ちょっと考えてみれば当たり前で、なにせクライアントはStarupなんですから、総務とか法務とか、そんなしっかりした区分はない、、、というか、そもそもそんなことに力を使っている場合ではないわけです。みんなビジネスに資金繰りにネットワーキングに大忙し。法務文書の記録や保管に気を配っている暇なんかないのかもしれません。

ちなみに、こちらでは、会社を設立しても、特に必要がない限り、実務上株券を発行しません。資金調達の局面でVCから求められたりしたら、その都度発行する感じです。で、その理由は至って簡単。

「発行してもどうせ無くすから」

以上。
分かりやすい超合理的な理由ですね。

こちらで実務をするようになってよく耳にするようになった言葉として、「house-keeping」という単語があるのですが、こちらのLaw Firmは、そんなこんなで、まさしく会社のHouse keeperとしての役割を担っているのだなと感じます。

ほんとは別の項目も書こうと思ってたんですが、予想外に長くなってしまったので、今日はここまで。
竹内信紀

2015年1月7日水曜日

新株予約権のあれこれ (1)

 Startupに携わる場合に避けて通れないのが、新株予約権にまつわる基本的な事項の理解です。
 本日から何回かに分けて、新株予約権に関する基本的な事項を徒然なるままに再確認してみたいと思います。
 とはいえ、実はこの新株予約権、突き詰めるとかーなーり難しいモノの一つなのですが…

1 定義

 会社法は2条において多数の用語を定義していますが、その21号によると、新株予約権とは
   「株式会社に対して行使することにより当該株式会社の株式の交付を受けることができる権利」
とされています。
 もう少し具体的な表現としては、
   「権利者が(新株予約権者)が、あらかじめ定められた期間内に、あらかじめ定められた価額を株式会社に対し払い込めば、会社から一定数の当該会社の株式の交付を受けることができる権利」
と定義されています(江頭憲治郎『株式会社法〔第5版〕』775頁、有斐閣・2014年)。
 つまり、
   「2015年1月7日から3月7日までの2ヶ月間の間、株式会社BLI(BizLawInfo)の株式を、一株1000円で買う権利」
のような権利のことを、新株予約権、と呼んでいるわけです。
 ちなみに筆者が教わったところでは、アメリカでは新株予約権のことを端的に
   株式のコール・オプション
と説明しています。Corporate Financeの授業では、デリバティブの説明の最初に、コールとプットの両オプションを説明する過程で出てくるものでした(勿論新株予約権自体の経済的価値評価の方法の説明は別です。)。

2 ストックオプション?CB?

 この新株予約権ですが、日本ではしばしば「ストック・オプション」や「CB」と同義に利用されることがあります。が、日本法の下では、厳密には
   ストック・オプション⇒新株予約権
   CB⇒新株予約権
という関係は、まぁざっくり正しいと言えますが、逆は必ずしも真ならず。
   新株予約権⇒ストック・オプション
   新株予約権⇒CB
は間違い、ということになります。ベン図で言うと、大きな「新株予約権」の中に「ストック・オプション」と「CB」というそれぞれの領域がある、ということになるでしょう。
 日本では、一般的に、「ストック・オプション」とは役員又は従業員に対していわゆるインセンティヴ報酬の趣旨で付与される新株予約権を指す場合が多く、「CB」は転換社債型新株予約権付社債という形を採ることと整理されています。
 このあたり、アメリカの制度と細かいところを比較すると結構面白いのですが、それはまたいつかどこかで…

3 CB与太話

 ちょっと話が逸れますが、シリコンバレー界隈の皆さんが「シードラウンドはCBにしよう」「エンジェルからCBで出して貰え」と話しているCBは、もちろん
   Convertible Bond
の頭文字です。
 このCB、まんま直訳すると
   転換社債
となります。つまり、CBは、元々は転換社債を指すものだったのでしょう。現在の会社法の下では「転換社債」という名前の社債は存在せず、あくまで転換社債「型」(=予約権の行使の場合に社債が消滅するタイプ)の新株予約権がくっついた社債、と整理がされているため、日本のStartupから「CBを発行したい」というご希望を戴いた場合には、
   転換社債型新株予約権付社債
という非常に長いお名前の権利の発行の準備をすることになります。

 ここで地味にポイントになるのは、この日本版CB、「新株予約権」がくっついているためもあり、その内容を登記しなければならん、ということです。ということは、
   登記の必要書類
を揃えなければならない上に、その書類の内容に不備がないか、
   法務局のチェックを受ける
ということになります。そうすると、いつ登記申請に持ち込むかというタイミングの問題は別として、
   日本でCBの発行手続を行う場合、それなりに時間がかかる
ということになります。

   「一刻もはやくプロトタイプを作りたい!同じようなことを考えているヤツがいるらしい…!」
   「良いペースで改良を重ねていたのに、資金が底を尽きつつある…」
というようなアーリーステージの場面、
   「そろそろシリーズBも見えてこようかというときに資金繰りが悪化しつつあったが、アメリカのVCがファイナンスに応じてくれることになった!」
というようなミドルステージの場面など、CBを活用する場面はいくらでもあり得るでしょう。
 そのような場合に、(そもそも投資家を探すこと自体が一番難しいですが)せっかくCBを引き受けてくれる人が見つかっても、実際に資金を払い込んでもらうまでにはある程度時間がかかる、ということになってしまいます。

 特にシードステージなどでは、エンジェルからの資金がないとアルファ版をリリースすることもできない場合もあるはずで、これだけ競争が激しいと資金調達の1ヶ月の遅れが後々まで響く、ということだってあるはずです(現に、Startupの皆さんは本当に時間を大切にされていますよね。)。
 
 本業に集中するために、Founderが資金調達で悩むことがないと良いのですが、実際は資金調達と人材確保に奔走されている方も多いはず。このブログが、そのような方の役にも立つように、これからもボチボチと更新を続けていきます。


StartupとLaw Firm (1)

Wilson Sonsini Goodrich & Rosati(WSGR)で働き始めて4ヶ月が経ちました。
わずか4ヶ月ですが、会社設立、その後の基本法務、さらに資金調達を中心に、かなりの数のStartupに関与させてもらいました。その数20社以上、日本では考えられない数だなと感じています。

私がこれだけの数のStartupに関与できているということはつまり、それだけの数のStartupがWSGRに依頼しているということです。

これをシリコンバレー、さらにはベイエリア全体に視野を拡げてみれば、それこそ途方も無い数のStartupがローファームにリーガルサポートを依頼しているということになります。
先ほど「日本では考えられない数」というのは、すなわち、「日本ではStartupがStartupの段階で法律事務所にサポートを依頼することがまだまだ少ない」ということと同義ということになります。

そういえば、1度WSGRでお世話になっているボスに、日本の関係者から紹介のあったアメリカ中西部の会社の買収案件について最低限の情報のみで見積りをお願いした時に、そのボスから「シリコンバレーの会社であれば、最初の段階からほぼローファームが関与しているから、大体どのような状態か想像がつく。だから、最低限の情報のみであったとしても見積りを出すこともできるといえばできるが、中西部の会社は状態が分からない。会社内部がむちゃくちゃになっているかもしれず、そうなれば費用も当然あがる。だから、そのような情報だけでは、見積を出すことは不可能だ。」と言われたことがありました。
後半部分は、それほど驚くことではありません。日本でもよく経験することですし、見積もりを出すのは難しいことだと思います。

むしろ、注目すべきは前半のくだりですね。そう、シリコンバレーでは、最初からローファームが関与していることが当たり前なのです。もちろん、ローファームによって質にバラツキはあるのでしょうが、それでもローファームが関与している以上、ある程度の水準は確保できているのが通常なのでしょう。だから、最低限の情報のみであっても見積を出すことができる・・・というのようです。シリコンバレーにおけるローファームとStartupの緊密な関係を窺い知ることのできた一瞬でした。

ということで、せっかく弁護士(といっても日本の弁護士資格ですが)としてWSGRに勤務しながらSartupに関与しているのですから、これから何回かに分けて、シリコンバレーに置けるローファーム(若しくは弁護士)とStartupの関係について、気付いたことをしたためていきたいと思います。
竹内信紀


2015年1月5日月曜日

先端技術と未来社会 (1) 自動走行車

シリコンバレーでは毎日のようにMeetup(異業種の方々やVCとファウンダー、はたまたエンジニアの方同士など、一定の目的を持って人が集まる交流会のようなもの)が実施されていますが、その話題を追ってみると、いまシリコンバレーで流行っているものや、スマートフォンの次に世界を変えるモノはなんなのか、というテーマについて一定の対象が見えてきます。

分かりやすくシリコンバレーで現在隆盛を誇っているのは、例えばスマートフォン・アプリの開発やSNSなど、ソフト系のIT技術です。たしかにiPhoneを初めとするスマートフォンの登場は私たちの生活を一変させました。

方向音痴の私の家族でも目的地にあっさりと到着することができるようになりましたし、仕掛かり中のドキュメントをクラウド上に置いておき、ちょっとした移動時間にデバイス上で確認するようなことも日常の姿となりました。インターネットに接続するデバイスとしては最早PCよりもスマートフォン(やタブレット)が主、という方も多いと思います。

このスマートフォンの普及は、電波法など広い意味での通信機器プロパーの法律を除けば、それ自体によって大きな影響を受ける法務はそう多くなかったかもしれません。

しかし、いまGoogleや各自動車メーカーが開発合戦を繰り広げている自動走行の自動車などではどうでしょうか。カリフォルニア州では最近、DMV(日本の陸運局と免許発行主体である公安委員会の機能が合体したような、各州にある行政機関)が「自動走行の運転免許証」(以下「自動免許証」といいます。)を発行するようになりましたが、その発行枚数と被交付者が一部の業界で話題になっています。

(近所の道を走行するGoogle self-driving car(撮影私)。この道をまっすぐ行くとGoogleキャンパスがあります。ボディ上の煙突のようなものが結構なスピードでクルクル回っています。)

参考記事

この記事では2014年9月時点において、Googleに対し25枚アウディとメルセデスに対して2枚の自動免許証が交付された、と報道されています。しかし、シリコンバレー界隈の噂では、既にGoogleの取得した自動免許数は100枚を超え、発行枚数で2位に付けているのは著名企業家のイーロン・マスク率いるTesla Motorsで10数枚、アウディやメルセデスはこれに続くも10枚程度とも言われており、トヨタや日産など日本が誇る自動車メーカーの名前がなかなか聞こえてきません(とか言いながらGoogleのこの試験車はトヨタ製ですが笑)。

勿論日本の自動車メーカー(アメリカに住んでいると、その品質の安定感・安心感はやはり特筆すべきものがあります。)も手をこまねいて見ているはずはないので、基礎的な技術の特許権による確保や海外メーカーとのアライアンスなど、様々な対応策を打っているものと推察されますが、それにしても驚くのはGoogleの本腰の入れ方です。

事実、私が住んでいるMountain View(Googleのお膝元)では、日常の風景として、上の写真のようなGoogleのself-drive車の試験走行に出会います。ある自動車メーカーの方に教えて戴いたのですが、自動走行には地図が必須であり、Google Mapを有するGoogleは一日の長があるとのこと。その方の考えでは、2,3年のうちに、少なくとも高速道路と駐車の場面では、自動走行をする車両が現実に出始めるだろうとのことでした。

では、そんな自動走行車が走り回り、自動車の中では家族でトランプをしていれば目的地に到達するような時代、「保険」はどうなるのでしょうか。言い換えますと、自動走行中の車が不幸にも事故を起こしてしまった場合、その損害は誰がどのように負担すべきなのでしょうか。

まず考えられるのは、

「やはり事故を起こした以上は車の運行供与者が責任を負うべき」

という考え方です。この形であれば、自動走行が当たり前になる未来でも、自動車保険の基本的な構造は変わらない可能性が高いと言えそうです(自動走行は人間が運転するよりよっぽど安全、と言われているため、この形だと自動走行機能は保険料が下がる一要因として捉えられるようになるかもしれません。)。

しかし、感情的には、

「車の機能として自動走行が謳われ、それを信頼して利用しただけであり、事故は(運転席に座っていただけの)私に責任(過失)のあるものではない」

という考え方にも一定の説得力がありそうです(そもそも完全自動走行車に運転席があるのかよく分かりませんが…。コンセプトモックでは車内の丸テーブルを囲むようなモノが目立ちます笑)。

この言い分に則った場合、損害保険は誰がどのように加入すべきものになるでしょうか。自動車メーカーや自動運転の機能を開発した会社が保険に加入する、という構成が一番分かりやすくはありますが、事故が起きたらすべて自動車メーカーや機能開発者の責任、ということになっては著しく開発の意欲が削がれますし、極論すれば自動運転の開発を止めよ、という法制上のメッセージにもなりかねません。

このような観点から、個人的には、少なくともイノベーションを重視するカリフォルニア州(後日詳述しますが、UberやAirbnbなどのビジネスモデルが後追い的に認められたことに、端的にこの姿勢が現れていると感じられます。)、ひいてはアメリカで、この考え方がそのまま採用される可能性は高くないのかな、と思います。

勿論、我が国では、人身事故については自賠法がありますから、既存の枠組みでも加害者側がその責任を免れることにはならない可能性がありますが、保険の在り方という議論は自賠法とは区別して考えることができますし、場合によっては(保険法のみならず)自賠法の規定自体にも一定の修正が必要になってくる可能性もあるでしょう。

自動走行の仕組みなどにも拘わる議論だと思いますので、保険や損害の負担に関する法制の在り方は今後技術進歩と共に検討が進んでいくものであり、現時点で答えが出るものではありません。ただ、一つ保険という視点から見ても、技術革新がその周辺領域の古い常識を打ち破る可能性があることが分かります。

ここシリコンバレーでは毎日のように、より便利で、より豊かな生活が実現される未来について議論が交わされています。それぞれの技術が実現した場合に、どのような法制が必要となり、どのような手当てが必要となるのか。それを考えてみることもシリコンバレーでの楽しみの一つです。


2015年1月2日金曜日

ごあいさつ

皆様、あけましておめでとうございます。
そして皆様、どうもはじめまして。

弁護士の竹内信紀と小川周哉です。

私たち二人は、日本のTMI総合法律事務所に勤務し、Corporate lawyerとしてかれこれ5年以上(6年かも)、隣の席で経験を積んでまいりました。
そんな二人が、2013年夏からの米国留学を経て、何の偶然かシリコンバレーで再会することに…
現在、竹内のほうは、Wilson Sonsini Goodrich & RosatiというローファームにてStartupの実務を中心に昨年9月から研鑽を積み、小川のほうは、TMIのシリコンバレーオフィスに勤務する傍ら、この1月からVCファンドのDraper Nexusにポジションを得て、シリコンバレーの投資実務を間近で勉強する機会に恵まれています。
こんな偶然とチャンスは滅多にない!これは何かをしなければ!絶対ナニかしなければ!
ということでたどり着いた1つの答えが、Web上でのタイムリーでUp to Dateな情報発信です。

前置きが長く恐縮ですが、とにもかくにも、二人に共通する思いはただ1つ。

「シリコンバレーでの経験を活かして、皆さんに役立つ情報を継続的に提供すること」

思いだけが先走り、内容がついていかないのでは?という不安があることはさておいて、とにかく始めることが大事!ここはシリコンバレー、Lean Startupのお膝元!ということで、新年早々の本日から、このブログを始めることにいたします。

皆さんの日々の業務にちょっとした花を添えられるよう、日々頑張っていきたいと思っています。
まさにLean Startupを地でいくブログですが、どうぞ厳しくも温かい目でご訪問いただければ幸いです。
こんな二人ですが、どうぞ宜しくお願いいたします。

                        竹内信紀&小川周哉